メノウは中国名で、「瑪瑙」と書く。でこぼこした表面の石の塊を切ると赤みのあるベースに白っぽい渦のような模様が現れるところが馬の脳に似ていることからこう呼ばれるようになったという。
メノウは石英の一種だ。石英(Quartz=クオーツ)(SiO2)が目に見える大きさで結晶したものを水晶と呼び、微小な結晶が集合し、塊になったものを玉髄(Chalcedony=カルセドニー)と呼ぶ。この玉髄に様々な成分が混じることによって色や模様のバラエティーが生まれる。オレンジ・赤茶色の色がついた玉髄を紅玉髄(Carnelian=カーネリアン)、並行の縞模様が入ったものをOnyx=オニキス、この縞模様が赤茶系のものをSardonyx=サード・オニキスと呼び、さらに色・模様ともに美しいものをメノウ(Agate=アゲート)と呼ぶ。メノウとは鉱物の種類の名ではなく、宝石・貴石を扱う世界での慣例に基づいた呼び名であり、必ずしも明確な定義ではない。ものによってオニキスと呼ばれたりメノウと呼ばれたりすることがある。日本では玉髄はほとんど全てがメノウと呼ばれている。例えば 北海道の礼文島にはメノウが拾えるメノウ海岸という有名な観光名所があるが、ここで取れるものはほとんど無色半透明で模様のない玉髄で、これは海外では一般的にはAgateとは呼ばれない。玉髄に酸化鉄などの不純物の混入が多く、赤、茶、緑など濃い不透明な色がついたものはジャスパーと総称されている。

オニキス, オーストラリア

カーネリアン, 北海道今金町花石

ジャスパー, 北米オレゴン州

 

●メノウの種類
メノウはとてもありふれた鉱物で、ほとんど世界中で採れる。そのせいか日本の鉱物好きの人たちからはあまり相手にされていない感がある。同じ石英でも水晶の見事な結晶に惹かれるのが一般的な鉱物好きの人たちだ。また、宝石の世界でも、メノウは「半貴石=semi precious stone」、つまり宝石の下の貴石のそのまた下の「半」貴石というランクに属するので、日本では宝飾の世界でもグレードの低い、とるにたらない石、という扱いを受けていることが多い。ただ、そうした評価の低さは日本にあまり質の良いメノウが入って来ていないことにも起因している。日本で流通しているメノウの殆どが安価なカルセドニーに着色加工したものなので、「メノウなんてこの程度」という誤解がある。だが、質の良いメノウを見て、そのバリエーションの多様さを知ると、これほど面白く魅力的な石はない。
メノウの面白さは模様と色の面白さだ。それは天然の炉、あるいは調合室の中で作り出された極めて緻密で複雑な造形作品であり、握り拳大ほどの石の塊の中には造形と色彩のあらゆる可能性が閉じこめられている。結晶鉱物の魅力が幾何学の公理のような簡明さ、普遍性、ロジカルな魅力だとすれば、メノウには複雑さ、偶然性と乱調、混沌とした魅力がある。
メノウには大きく分けてvolcanic=火山性のものと、Sedimentary=堆積性のものとがある。溶岩が冷えて出来た小さな空洞の中に生成するタイプと堆積岩中に出来るタイプとがある。また、形状においては丸い団塊状=nodular(ノジュラー)のものと、岩石の中に脈状=seamにできたものとがある。 メノウは水晶と同じでモース硬度7と非常に硬く、磨くと美しい光沢が得られるので、半貴石として扱われている。メノウの複雑な模様がどのようにして出来るかはいまだに完全に解明されていないが、模様、色、希少性などによって様々な分類と呼び名がある、このサイトでも様々な用語を使っているので、以下に簡単に説明しておきたい。

●縞メノウ
縞模様が入ったものは縞メノウ=Banded Agateと呼ぶ。これが平行線状の模様の場合、先述したOnyx Banding=オニキス模様と呼ばれるが、縞模様が同心状の反復となっているものがある。タマネギのような構造である。それが少し角張った形のものはFortification Agate=フォーティフィケーション・アゲート(模様がヨーロッパの城塞=fortを上からみたような構造になっていることからこの名がついた)と呼ばれる。メキシコのラグーナ・アゲート=Laguna Agate、アルゼンチンのコンドル・アゲート=Condor Agateなどによくみられる。メノウでいちばん多いのが縞メノウだが、細かい縞がメノウ全体に入っているものは少ない。透明なベースに細かい縞模様がぎっしり並んでいて、光線の加減で陰影が動いて見える効果があるものがあり、これをシャドー・エフェクト=Shadow Effectと呼ぶ。また、
目玉のような同心円状の模様がついているものをEye Agateと呼ぶ。これは非常に珍しいタイプの模様で大変珍重される。古いブラジルのメノウには黒目と白目のバランスが絶妙なアイ・アゲートがあったが、今はほとんど採れない。北米のLake Superior Agateにも目玉模様が現れる。表面全体に無数の目玉がついたものもある。また、ウルグアイのクオーツやアメジストの結晶の柱の中に同心円状の模様のメノウが入っていることがある。また、マダガスカルのOcean Jasperの中にも目玉模様が沢山入っているものがあるが、これはベースのクオーツの中に球状の多層のメノウが、ちょうどなめていると色が変わる飴「変わり玉」のようなものが入っているという構造になっている。

Laguna Agate

Agate from Uruguay

Botswana Agate

 

●プルーム・アゲート
メノウの模様で、羽毛のような、あるいはシダ、花のような形のものをPlumeとよび、このPlumeがメノウの主な面積を占めているものをPlume Agate(プルーム・アゲート)と呼ぶ。プルームはカルセドニーのベースの中に立体的に、まさに植物が伸びるように、あるいは羽毛が生えるようにして並んで入っていることが多い。プルームは個々のメノウの中で偶発的に出来るのではなく、特定の産地でまとまった量が形成されるのが通常だ。つまり、縞メノウなどはほとんど無く、プルーム・アゲートばかりが採れる産地というのがあるわけだ。北米には様々なタイプのプルーム・アゲートがあるが、色、形の美しい「銘柄」は大変人気がある。特に有名なのはPriday Plume、Carey Plume、Graveyard Point Plumeなどで、主にカボッションなどに加工され、アクセサリーなどに多用されている。

Plume Agate

Plume Agate

Plume Agate

 

●モス・アゲート
メノウの中に鉄、マンガン、ルチルなど他の鉱物の細かい混入が見られるものをInclusion=インクルージョンと呼ぶが、様々なインクルージョンの色、形はメノウに非常に多くのバリエーションを与えている。石の中に藻が、あるいは苔が閉じこめられているのではとも見えるのが、モス・アゲートで、これはインクルージョンとしては最も多いタイプで世界各地のメノウで見られる。美しいモス・アゲートばかりがたくさん採れる場所もあれば、縞メノウの中に部分的に入っている場合もある。インドの緑色のモス・アゲートはベースの透明度も高く、モスも細かくて非常に綺麗なので、器などにも加工される。北米ではHorse Canyon Mossという有名な銘柄がある。オレゴンのサンダー・エッグにもモスが多くみられる。近年見みつかったものとしてはハンガリーのものも非常にカラフルで人気が高い。非常に細いモスをフィラメント・モス、また、モスの周囲に淡い透明な縁取りがあるものを、教会の飾り窓になぞらえてカテドラル・アゲートと呼んだりもする。

Moss Agate

Moss Agate

Cathedral Agate

 

●デンドリティック・アゲート
石の中に木が生えているかのように見えるインクルージョンがあるものがデンドリティック・アゲートだ。樹状のものは鉄やマンガンなどの金属であることが多いが、これも様々な産地のメノウにみられる。デンドリティーはメノウの縞と縞の層の間などに平板に伸びていることが多いため、模様のすぐ際まで削らないと見えず、多くが薄いカボッションなどに加工されて流通している。有名な銘柄としては、インドのCambayのものは形が非常に綺麗だし、カザフスタンのデンドリティック・アゲートには独特な奥行きがあり、まるで冬枯れの風景画のように見える。この特徴を生かして、デンドリティック・アゲートと他の色のメノウを切って貼り合わせるなどして「絵」に仕上げていく工芸をIntarsiaと呼ぶ。北米ではモンタナ・アゲートにもデンドリティックなものが多くあり、風景のように見えるものは大変高価だ。

Dendritic Agate, India

Dendritic Agate, Kazakhstan

Dendrities in Amethyst Sage, USA

 

●チューブ・アゲート
●セージナイト・アゲート

メノウの中にストロー状の構造のインクルージョンが見られるものをチューブ・アゲートと呼ぶ。このストロー、チューブはルチルなどの細い鉱物の針の周囲にメノウの層が出来たもので、ほとんどの場合、その「芯」であった鉱物は消えて無くなっている。様々な産地のメノウに見られるが、堆積岩タイプのメノウにはほとんんど見られない。ユニークなものとしてはチェコのHorni Halzeのチューブがジグザグに入ったものが有名だ。また、細い針状の鉱物の結晶が束になって放射状に伸びているインクルージョンをセージナイトと呼ぶ。Laguna Agateのフォーティフィケーションの外側に球状のセージナイトが付いているというのはよくあるが、全体がそうした細い針状の構造で埋まっているものをセージナイト・アゲートと呼ぶことがある。

Tube Agate

Tubes in Horni Halze Agate

Sagenite

 

●仮晶=pseudomorphs
ある鉱物が他の鉱物の結晶の後に、その結晶の形を残したまま形成されたものを仮晶=pseudomorphsと呼ぶ。つまり、メノウでいえば、水晶や霰石などの結晶の中身が空っぽになり、かわりに中がメノウに置き換わったものを指す。水晶の結晶の形のメノウ、霰石の結晶の姿のメノウが出来る。それが大きなメノウの塊の中に埋もれている場合もあれば、単独で結晶の形を残しているものもある。ブラジルのParaibaで採れたPolyhedroidは大きな重晶石の結晶の形を借りた多面体のメノウとして有名だ。メキシコのCoyamito Agateは方解石のpseudomorthが多くみられることで知られている。

Polyhedroid, Paraiba, Brazil

pseudomorphs, Coyamito Agate

pseudomorphs, Germany

 

●サンダー・エッグ
球状の団塊の中でメノウが放射状に形成されたものがあり、北米ではこれをThunder egg=サンダーエッグと呼ぶ。北米のオレゴン州の先住民の伝承で、二人の山の神が喧嘩して互いに雷とともに投げつけたのがこの石だといういわれだ。ゴツゴツした無骨な外見の石の中に星形にはじけたピカピカのメノウが入っているので雷のタマゴと考えられていた。学名はlithophysae(ラテン語で石の泡という意味)で、オレゴン州以外では、ニューメキシコ州のBaker Mine Thunderegg、東ドイツのサクソンのサンダーエッグ、フランスのカンヌの近くにあるEsterelで採れるゴルフ・ボール位の大きさのエッグ、オーストラリアのクイーンズランドのエッグなどが有名だ。オレゴン州には数十もの種類のエッグがあり、メノウでなくジャスパーが詰まっているもの、オパールが詰まっているものもある。メノウにはインクルージョンが多く、プルームやモスも見られる。

Thunderegg外観

Thunderegg, Saxony, Germany

Thunderegg, Oregon, USA

 

●その他の特徴
そのほかにも、メノウの模様や形状にはいろんな名前がついている。透明な細かい縞が光の屈折率を細かく変えて、透かしてみると虹色に光るIris =アイリス・アゲート、メノウの縞の層などの構造と無関係に色の変化がみられるクロマトグラフィー=chromatography、メノウの中心部分が空洞になっていて、内壁に水晶やアメジストなどの結晶が出来ている晶洞=Geodeなど、さまざまなタイプのメノウがある。


メノウは世界各地で産出し、古来から様々に加工されてきたが、ドイツのIdar Obersteinは白と濃い色の縞メノウの層を利用したカメオ作りなどの技術で知られ、長らくヨーロッパのメノウ加工の中心地だった。中国や日本でもメノウは装飾品やさまざまな奢侈品などに使われてきた。古くは日本の古墳からメノウの勾玉が多数出土しているし、江戸時代のメノウの香炉、根付けなどは今も骨董品として頻繁に取引されている。現在はブラジル産のメノウが最も多く世界で流通しているが、殆どが無色のものに着色加工されたものだ。日本でも若狭、出雲の玉造など古くからのメノウの産地があるが、これらの産地で現在売られているものの殆どがやはりブラジル産の着色メノウとなっている。
ここで紹介するメノウはいずれも加工や着色などされていない、天然の色、模様のものだ。メノウは日本ではあまり珍重されていないが、欧米、特にドイツ、アメリカには非常に多くのコレクターがいる。両国ともに非常に質の良い、美しい模様のめのうが採れるので、自分でめのうを採集し、切って、磨く人が少なくない。産地は数多くあるが、既に採り尽くされた場所も多く、そうした産地の質の良いメノウは非常な高値で取引されることもある。